スペシャルコンテンツ:J-TOPの活動の変遷と展望
概要:このコンテンツはJ-TOPの活動の原点、現在の活動と今後の展望についての記事コンテンツです。
J-TOPの活動とチーム医療について
チーム医療とは?
チーム医療は、がん医療の実践における基盤であり、米国臨床腫瘍学会(以下: ASCO)の多職種会員制度や多職種アプローチを推進するプログラムにも反映されています。変化の激しいがん医療の現場において、世界中のがんに関わる組織・団体がこの理念を共有しています。日本のJapan TeamOncology Program (以下: J-TOP)もまた、日本国内およびアジア各国におけるチーム医療の推進と変革をミッションとして活動を続けています。
J-TOPの創設
2002年、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターとの共同プログラムとして、当時MDアンダーソンがんセンター教授であった上野直人先生によりJ-TOPは創設されました。長年の活動により、J-TOPはがんチーム医療に関する卓越した教育を提供する団体として成長しました。MDアンダーソンがんセンターなどの著名な機関と協力し、国内外から招聘する講師の専門知識も活用しながら、J-TOPは常に進化するがんチーム医療のニーズに対応しています。この取り組みは、2006年に制定された「がん対策基本法」にがんチーム医療の概念を取り入れ、チーム医療をがん医療における重要な要素として推進する契機となりました。
J-TOPの活動
J-TOPの活動の根底にあるものは、「リーダーシップ」と「チーム形成に関する理論的教育と実践的応用」の融合にあります。J-TOPが主催するワークショップでは、参加者は3日間の日程の中での集中的な学習体験を通し、がん医療に関わる最新の研究や、チームワーク、コミュニケーション、患者中心のチーム医療の実践に必要なスキルセットを学びます。これらの包括的なアプローチを通して、参加者は学んだスキルセットを実践してワークショップ内で与えられる課題を解決し、修了後は患者を支える立場として日々のがん医療に「チーム医療」の理念を活用するに至ります。これまでに1,500名以上の医療者が、国内外から招聘した講師による計22回のワークショップと、地域医療にフォーカスして開催された計27回のセミナーを通して教育を受けてきました。
J-TOPの成功の中心には、次世代のがん医療のリーダーを育成するメンターとチューターのネットワークがあります。過去のワークショップにより選抜されたメンターとチューター200名以上が、ワークショップや様々な教育活動を推進し、学習の波及効果を生み出しています。これらメンターとチューターは教育者として、次世代のがん医療のリーダーたちの学習を後押しし、その成長をエンパワーメントしています。
海外への影響:アジアおよび米国での活動
アジアにおけるがん治療の向上のための異文化理解
アジアの多様な文化的背景を重要視し、J-TOPはアジア諸国のニーズと文化を考慮したアプローチを開発しました。リーダーシップの原則(コミュニケーションやチーム形成など)は普遍的な要素である一方で、J-TOPは米国的なアプローチ一辺倒にならないことの重要性を理解しています。アジア各国の医療者との緊密な協力を通じて、J-TOPはアジア7か国から参加者を招聘し、異文化理解に基づく交流を促進するプログラムを開発してきました。がん医療の向上を志すプロフェッショナルたちのコミュニティを各国で育むことで、J-TOPは地域レベルでのがん医療の向上を推進しています。
がんチーム医療を日本国外のアジア各国にも広めるため、J-TOPはその活動範囲を広げてきました。2021年には台湾でT-TOPが、2023年にはベトナムでV-TOPが開始し、韓国やフィリピンでも同様のプログラムの設立が検討されています。
J-TOPが国際的に知られるようになった要素のひとつが、米国のMDアンダーソンがんセンターとのコラボレーションです。J-TOPのメンバーは、MDアンダーソンがんセンターでの見学や実習を通して、最先端の研究や医療に触れる貴重な機会を得ることができます。この経験はメンバーたちの成長を促進し、日本に帰ってからの実臨床の質を向上させることに繋がります。さらに、J-TOPはアジアにおけるProject ECHOのハブ機関として承認され、MDアンダーソンがんセンターが継続的な教育プログラムを展開するための拠点として活動を続けています。2019年以来、これまでにJ-TOPは60回以上のオンラインカンファレンスを開催し、アジア全域における医療者教育の推進に貢献しています。
ASCOとの協力の模索
J-TOPでは、ASCOとの協力も模索しています。2023年、上野直人先生とASCOの国際部長であるダグ・パイル氏が中心となり、J-TOPのメンバーとASCOアジア太平洋地域評議会の代表メンバーとの会合を開催しました。その議論の中で、両者がチーム医療の推進にコミットしているだけでなく、国際的な交流や、それによって得られる多様な価値を重要視していることについて認識を共有しました。協力の可能性がある分野としては、ASCOの「チーム医療マネジメント教育(MCMCs)」があり、これは低・中所得国での一般的ながん医療に対するチーム医療のアプローチを取り扱っています。その他、関連するASCOのイニシアチブも検討されています。
がんチーム医療が現場に根付き、成立・成長するためには、医師だけでなく、さまざまな職種を巻き込むことが重要です。同様に、アジア各国における国際的な連携を成功させる鍵は、多職種の多様な関与を実現することです。このアプローチは、アジア社会の階層的な構造に着目し、英語を話せる上級職のスタッフだけでなく、他の医療従事者の関与をも推進する必要があります。これらを通じて積極的な国際交流を進めることは、ASCOが掲げる「公平性・多様性・包括性(EDI)」の目標とも一致します。ASCOにおけるEDI推進メンバーである上野直人先生は、ハワイ大学がんセンターのリーダーとして、世界で最も広い地域(ハワイ諸島全域および米国の太平洋諸島地域)をカバーし、米国で最も人種や民族の多様性に富む機関を率いるという特別な使命を担っています。
直近の成果と未来への展望
J-TOPは今年、設立から22年を迎えると共に、Run for the Cure Foundation Japan(以下:RFTC Japan)と新たなパートナーシップを締結しました。J-TOPはRFTC Japanとの協力を通して、乳がん医療やリーダーシップ教育の強化を図っていくことを予定しています。2024年度は3名の若手医療者を対象に、ASCO年次総会への参加サポートプログラムを初めて実施しました。彼らがASCOから貴重な知識を得て、日本に新たな視点を持ち帰り、がん医療の分野におけるさらなる発展に寄与することが期待されています。
世界中が激動のポストコロナ時代に翻弄される中、J-TOPはがん医療の向上に対するコミットメントを明確に示し続けています。対面でのワークショップ再開や、プロフェッショナル育成を支援する新たな取り組みを通じて、J-TOPは変化し続ける環境の中で医療者が常に最高水準のケアを提供し続けられることを継続的に支援しています。過去10年にわたり、J-TOPはMDアンダーソンがんセンターからの支援をはじめ、米国やアジア各国の複数の機関からの講師も参画しながら進化してきました。この多様化を通して、日本だけでなくアジア各国に向けた、より豊かで意義深い教育プログラムが実現しました。そして、持続可能な教育プログラムを通して、相互の信頼関係を築く方法を模索し続けてきました。
未来に向けて、J-TOPの使命は揺るぎません。それは、包括的なチーム医療を基盤としたがん医療が誰にでも届く世界です。私たちは今こそ名称を”ジャパン”チームオンコロジープログラム(J-TOP)ではなく、チームオンコロジープログラム(TOP)と名乗るべきかもしれません。これはつまり、私たちの活動は日本だけではなく、国際社会への貢献を表しているのです。私たちTOPは揺るぎない貢献と協力の精神をもって、アジア全域の医療者にインスピレーションを提供し、エンパワーメントし、より明るく健康的な未来に向けて道を切り開いていきます。
今コンテンツについて
今コンテンツは2024年8月26日に米国臨床腫瘍学会の専門かの情報サイト ASCO Connectionでの投稿「アジアにおけるがん治療の変革:(J-TOP)が歩んだ22年間/ (和訳)」を全文和訳、再編してお送りしております。
記事内の情報は2024年8月時点での内容になります。あらかじめご了承ください。